乙号事務の委託業務の停止及び委託契約の解除について(声明)

 法務省は本年7月17日、公共サービス改革法(市場化テスト法)に基づく登記簿等の公開に関する事務(乙号事務)の包括的民間委託に係る委託業務について、その受託事業者であるATGcompany(株)及びアイエーカンパニー(資)(以下「両社」)との委託契約の解除を決定した。
 今般の事態は、公共サービス改革法をはじめ、公務の民間開放の制度的な矛盾が顕在化した類のないものであるとともに、両社の約1,400名もの業務従事職員が一斉に解雇されたことなどをはじめ、その弊害や負担が公共サービスを享受する国民と公務に従事する労働者に転嫁されたことにおいても、その稀にみる被害の実態は、到底容認できるものではない。

 両社においては、いわゆる乙号申請書を提出(登記手数料を納付)することなく、自社の登記事項証明書を不正に取得(登記情報の目的外利用の禁止に違反)したことが2011年4月に発覚したことから、法務省は両社に対して、同年5月16日~9月16日までの委託業務の一部停止を命じたほか、委託業務の適正かつ確実な実施を確保するための措置として、新たなコンプライアンス体制の構築をはじめとした業務改善指示を発出した。
 また、法務省は本年2月、両社が業務従事職員の健康保険等に関わる虚偽の届出を行ったとして、同年1月に東京簡易裁判所から罰金50万円などの略式命令を受けた事態を踏まえ、あらためて両社に対して業務改善指示を発出した。
 さらに、本年6月には、両社の健康保険料等の滞納を理由に、日本年金機構が同社の有する乙号事務に係る委託費支払請求権の差押を行った事実が発覚するとともに、両社の業務従事職員の給与が一部未払いとなる事態も発生した。
 法務省は本年6月29日、両社が健康保険料等を滞納していたことは、同年2月の業務改善指示に違反するものであるとして、両社に対して本年7月2日~8月3日までの委託業務の全部停止を命じており、そうした経過のもとにおいて、今般の委託契約の解除を決定するに至ったものである。

 全法務省労働組合は、乙号事務の遂行には登記に関する高度な専門的知識が要請されることや、それら公務の公共性を維持する必要があることなどから、公共サービス改革法に基づく乙号事務の包括的民間委託には、基本的に反対する立場である。
 一方で、公共サービス改革法が施行されているとともに、行政実態を無視した定員削減が強行されるもとにおいて、(1)登記の信頼性の確保、(2)行政サービスの維持・向上、(3)受託事業者従業員の労働条件の確保などを追求するなか、委託業務の運用・実施等の改善はもとより、公共サービス改革法の改正や公契約法の制定などを実現するため、労働組合としての運動をすすめてきた。

 公共サービス改革法は、「公共サービスによる利益を享受する国民の立場に立って、国の行政機関等又は地方公共団体が…自ら実施する公共サービス…の実施について、透明かつ公正な競争の下で民間事業者の創意と工夫を適切に反映させることにより、国民のため、より良質かつ低廉な公共サービスを実現すること」を、その基本理念としている。  しかしながら、民間競争入札における低価格競争の激化を規制しないまま放置し、受託事業者の違法行為などを理由として今般の委託契約の解除に至ったことは、国が公共サービス改革法の施行にあたって、その基本理念に背反するとともに、公共サービスを享受する国民の利益を損なったことにほかならない。
 全法務省労働組合は、2011年の委託業務の一部停止などに際して、受託事業者の「信用力」が問われる事態に至ったことは、受託事業者のみの責任にとどまらず、市場化テストを実施する国の責任も免れ得ないものであることを法務省に指摘してきた。
この「国の責任」とは、(1)「構造改革」「規制緩和」により「官から民へ」を推進し、官製ワーキングプアを創出している「政治の責任」と、(2)公務への民間企業の参入を拡大し、行政サービスの質を劣化させている「行政の責任」(内閣府官民競争入札等監理委員会や法務省など)である。
 また、委託業務の一部停止などの事態の再発防止に向けて、受託事業者に対する監督責任の履行を法務省に求めてきたにもかかわらず、受託事業者の法令遵守を徹底できなかった監督官庁としての責任は重大である。

 今般の委託業務の全部停止及び委託契約の解除にあたっては、両社の約1400名もの業務従事職員の全員に一方的な解雇通告が行われているとともに、両社が裁判所への自己破産の申立を決定していることからしても、給与の不払いなどの事態も危惧されている。現在これらの業務従事職員は、法務局の非常勤職員として雇用され、約1ヶ月間を予定期間として乙号事務に従事し、継続的な行政の遂行に貢献しているにもかかわらず、その雇用不安は払拭できないままである。
 業務従事職員の労働条件については、第一義的に直接の使用者である両社が責任を負うものであるが、国が市場化テストを実施することにより大量の不安定労働者を創出しておきながら、国と受託事業者間の一方的な理由により委託契約を解除するならば、法務省は業務従事職員の雇用の確保に配慮すべき信義則上の義務を負うべきであるとともに、委託業務の適正かつ確実な実施を担保するためには、受託事業者の財務状況や業務従事職員の労働条件の確保などについても、国が監督責任を負わなければならないはずである。

 全法務省労働組合は、これら国の行政責任を厳しく追及するとともに、公務・公共サービスの充実と公務に従事するすべての労働者の「働くルール」の確立をめざして、広範な官民労働者との連帯を図り、あらためて運動を強化していくものである。

 2012年7月17日

全法務省労働組合中央執行委員会