地域主権改革の定義になじまない「登記制度」


6.16「法務局の地方移管反対」
法務局支部上京団行動

 各支部は、「地域主権戦略大綱」に盛り込む「出先機関の基本的考え方」の取りまとめに向けて、「登記は国が保証する信用制度」を主張して、都道府県の地域主権改革関係部署の担当者に知事宛要請行動を実施してきました。また、横断幕やのぼりをかかげ、独自宣伝ビラを配付して、駅前などで宣伝行動を実施してきました。それらの動きにあわせて、本部は、日本司法書士会連合会、日本土地家屋調査士会連合会や経団連、経済同友会、銀行協会など登記と密接な関連団体に対して、要請行動を実施してきました。要請に対し、日本司法書士会連合会や日本土地家屋調査士会連合会は「法務局の地方移管には反対の立場でともに取り組んでいきたい」と要請に応じ、経団連の担当者は「登記は、当然、国が実施すべき業務であって、地方移管になじまない」と語りました。
 地域主権戦略会議は、年内に業務毎の移管時期や廃止する機関などを定めた「アクション・プラン」を策定するとしています。
 引き続き、法務局の事務・権限は国が責任を持って行うべきと主張することが私たちの責務であり、国民・住民へも理解を求め、世論を広げていかなければなりません。地域主権改革に対するたたかいは、今後予断を許さず、これから来春にかけて正念場になります。


  1.  わが国の不動産登記制度は、明治19年の旧登記法(法律第1号)により、裁判所の事務として開始されてきました。
     昭和22年、新憲法・裁判所法が施行され、登記事務は裁判所から分離されました。
     しかし、登記・戸籍などは国家が国民の財産上、身分上の私権関係を形成・公証するものであり、法規の厳格な適用を期す準司法的行政事務であることから、司法事務局(後に法務局及び地方法務局に改称)で取り扱われてきました。
  2.  しかし、1963年、政府臨時行政調査会(第一臨調)は、地方法務局を廃止し、登記事務を市町村に移管する方向を示しました。話はちょっと横道に逸れますが、この考えが同調査会委員の総評太田議長より「太田メモ」として、提案されたものであったため頭ごなしに反対できず、組織内では大変な議論になりました。
     1981年の第2臨調(土光臨調)でも、地方法務局の廃止が検討されましたが、臨調答申では地方法務局の廃止は明記されず、第一臨調と同様に統廃合などの組織の合理化を行いつつ、事務は引き続き国が行う事務として決着しました。
     1998年には、橋本行革による登記・供託事務の独立行政法人化の検討を、主要新聞はトップニュースで「登記・供託は独立行政法人化」と報道しました。
     当時わが国には、独立行政法人という組織機構は存在せず、私たち労働組合は英・独両国に調査団を派遣し、実態を把握するところから運動を始めました。
     登記事務が特別会計で運営されていたこともあり、組織内にも独立行政法人化に積極的な意見も存在しました。しかし、「登記制度は国が直営で行う必要がある」との見解で組織内意思統一を行い運動を展開しました。最終的に政府行革推進事務局は、「登記・供託の独立行政法人化は引き続き検討」とし、独法化を事実上断念しました。
     その後、2001年小泉政権の、地方分権改革で登記事務の地方移譲が検討されました。構造改革路線を継承した安倍内閣は、地方分権改革推進法を成立させ、全国知事会や道州制導入をねらう財界と一体になって、地方分権改革案の具体化を進めました。そして、幾つかの国の事務・事業について地方移譲を打ち出しましたが、2008年12月8日登記事務については「引き続き国が行う」との結論を出しました。
  3.  このように数次に渡り検討されてきた登記事務を取り扱う組織機構のあり方ですが、最終的には、「登記は国民の財産・権利に関わる行政であり、国が責任を持つため組織は維持する」と判断されました。しかし、2009年政権交代により誕生した鳩山政権の地域主権改革で議論再燃となってきています。政府は「地域のことは地域が主体的に判断し、責任を持って行う」との地域主権改革の定義のもと、国の義務づけ・権限移譲、国の出先機関の原則廃止などについて検討を進めています。また、全国知事会も同様に検討を進め、本年3月23日には中間報告を公表しています。中間報告では登記など法務局の9事務を地方移管可能と分類し、国の戦略会議と歩調を合わせ国の権限や事務の地方移譲に積極的に対応してきています。
  4.  私たちは今般の改革について、次の理由により登記制度は国が引き続き行うべきと考えています。
    ①不動産登記制度は、国民の財産と権利関係を、国家機関である登記官が登記し、これを公示し国民生活と取引の安全を国が保証する制度であること。
    ②事務処理は国が法律で定めた「全国一律の処理基準」で公平・厳正に行われており、地方移管により地域が自主的判断で運営した場合、地域間格差が生じ制度の公平さが失われ登記制度として成り立たなくなること。
    ③筆界特定制度でも国家機関としての登記官が、位置不明となった筆界を最終的に特定しており、公正・厳正な特定に利用者の信頼が高まっていること。
  5.  2010年6月22日政府は、「地域主権戦略大綱」を閣議決定し、8月末までに地方移譲の事務・事業を決定しようとしています。風雲急を告げるこの時期、全法務組合員は全国津々浦々で、法務局に働く者の責務として国民の皆さんに「登記は国が責任を持って行うべき制度です」と力強く訴えましょう。

地域主権改革チラシ(PDF)