今こそ公契約法の制定を!
適正な労働条件の確保/従業員の継続的雇用の保証/最低を制限した価格の設定

破綻が明らかになった「構造改革」路線

 「改革なくして成長なし」が連呼され、強行されてきた「構造改革」の破綻が、明らかになってきています。「構造改革」の本丸とされてきた「郵政民営化問題」では、山村部の郵便局廃止、都市部郵便局での取扱業務の統合などでは、かつての利便さは失われて、旧郵政施設売却や簡保の宿などのたたき売りが新たな問題となってきています。
 さらに、これまでの社会的価値を否定し、全てを市場原理に任せた「構造改革」は、労働市場では雇用・賃金破壊を生みだし、格差と貧困を極限まで拡大してきています。
 また、ガタガタの日本経済、地域経済や医療の崩壊、食品偽装、地球環境破壊なども「構造改革」が原因であることが明らかになってきています。
 「自己責任」の一言で国民の多くの権利が抑制され、人間の尊厳を踏みにじる後期高齢者医療制度も、社会保障の「構造改革」で強行されたものです。

「小さな政府・官から民への『行政改革』」も矛盾が噴出

 本丸に匹敵するもう一つの「構造改革」が、「小さな政府」「官から民へ」をキャッチフレーズにした行政改革であり、「行政改革推進法」により強行されています。
 行政改革推進法で私たちに関わりが大きい部分は、①総人件費の削減、②定員純減、③地方支分部局の統合・廃止、④給与制度見直し、⑤人事評価制度導入、⑥登記特別会計の廃止、⑦市場化テストの実施などとなっていますが、いづれの「改革」も国民本位の法務行政の推進の立場からは、大きな矛盾を噴出させてきています。
 特に職場実態や組織の実態を考慮しない機械的な定員純減は、多様化・増大する行政需要への対応を困難にさせるとともに、次代を担う職員の育成や専門知識の伝承を不可能にしてきており、行政組織としても極めて不健全の方向に突き進んでいます。

説得力のある「構造改革」転換の主張

 かつて、構造改革の急先鋒であった中谷巌一橋大学名誉教授は、『「構造改革」は誤りであった』とした著書を刊行し、やはり「構造改革」を推進した尾辻元厚生労働大臣は、参議院の代表質問で『市場原理主義は間違いであった』と発言しています。また、テレビ・新聞なども構造改革の負の部分を報道するようになってきており、「労働者派遣法の見直し」「タクシーの規制緩和の見直し」などの議論が始まってきています。
 09春闘はこれから山場の闘いに差し掛かり、全労連が提起する春闘課題である『構造改革路線の転換』を、大きな国民世論で実現する必要があります。

法務行政にはなじまない「市場化テスト」

 公務部門の「構造改革」は、行政改革推進法で具体化されてきており、法務局での市場化テストによる乙号事務の包括的民間委託はその代表格です。
 法務局では、職員数の不足から登記事務の証明書発行部門の一部事務を民間委託で処理してきました。しかし、政府は「市場化テスト法」に基づき、この事務処理を全面的に民間委託することを決定し、本年度から順次全国の登記所で本格実施してきています。
 私たちは、証明書等発行部門の担い手を、2~3年ごとに競争入札により決定される業者に任せることは、この事務が専門性の高い事務であり、継続性・安定性が求められる重要な行政事務であることから基本的に反対を表明してきました。
 この立場は引き続き変わらないものの、「法律」を根拠に現に実施されてきている全面的民間委託に対しては、①登記制度の信用・信頼を確保し、行政サービスの「質」の低下をさせないこと。②受託事業者従業員の雇用と労働条件を確保すること。等を当局に強く要求し、より増しな民間委託となるよう取り組んでいます。

低価格競争入札で悪化する受託事業者従業員の雇用・賃金・労働条件

 競争入札により決定され08年4月より実施されている全国22庁の包括的民間委託は、前年度の試行結果を踏まえ一定の条件の下で実施されていることもあり、登記行政サービスの「質」は概ね確保されています。しかし、受託事業者従業員の雇用確保や労働条件については、「市場化テスト法」に何の規定もないため、それまで働いていた委託職員に失職や労働条件の切り下げなどの事態が発生しました。この問題の解決が図られない状況の中で、内閣府の官民競争入札等監理委員会は、09年度実施の135庁の競争入札について、公共サービス改革法第3条の基本理念「・・・公正な競争の下で民間事業者の創意と工夫を適切に反映させることにより、国民のために、より良質かつ低廉な公共サービスの実施・・・」を根拠に、多くの民間事業者の参入による低廉価格競争が重視された入札実施を求めてきました。
この結果、09年度実施では低価格競争が激化するなかで、これまで事務受託を行っていた(財)民事法務協会以外に、新たに6事業者の参入が決定されました。
 市場化テストは、公務行政サービスの担い手を低廉価格競争により決定する仕組みであり、納税者・国民からすれば低価格で受託事業者を決定する競争入札は、ある程度理解できる方法かもしれませんが、低価格競争により委託した行政の「質」が低下するようなことになっては、経済取引の安定や国民の安全・安心は確保できません。
 また、2~3年ごとに繰り返される低価格競争は、受託事業者の経営にも深刻な影響を与え、従業員の雇用・賃金・労働条件の悪化につながるばかりでなく、安定した受託態勢の構築にも支障をきたします。
 現に今次競争入札により多くの局で不落札となった(財)民事法務協会は、多くの職場で大量の従事職員の雇用継続に困難を生じさせるなど労働条件の低下を余儀なくさせてきています。また、新たに参入となった事業者のなかには、受託態勢を派遣や非正規労働者中心で考えていたり、事前研修についても不十分さが目立ち、4月1日からの安定した実施に不安を生じさせています。

「公契約法」の制定が急務
 私たちは登記行政への民間参入が、「市場化テスト法」により競争入札で具体化しつつある状況にあって、受託事業者従業員の雇用安定と、適正・公正な賃金・労働条件などを守るためには、「公契約法」(ILO94号条約の批准)制定が急務と考えています。
 さらに、効率的で国民のための行政、「質」の良い行政を確保するためにも、「公契約法」により、行政の担い手の労働条件の水準が確保される必要があると考えています。

全法務が考える「公契約法」

  1. 公契約の発注者は、入札や応募の要件・基準策定にあたって、受託事業者が従事する労働者に対して、公正な賃金と適正な労働条件を確保できる内容とすること。この場合の賃金・労働条件は同職種に従事する公務員の水準を考慮すること。
  2. 入札により受託事業者が変更になった場合も、当該業務に従事していた労働者がこの業務への継続従事を希望した場合、従前の労働条件を下回らない条件での雇用を新規受託事業者に義務づけること。
  3. 「安ければよい」という低価格競争をやめ、受託事業者が受託する事業の質の維持・向上を実現できる最低制限価格を設定すること